インドの物価とお給料と日本人の金銭感覚がずれていることについて

日本人によくある誤解。
「インドの物価は日本の約1/4〜1/3」と聞くと「じゃあ、日本での毎月の手取りが30万円だとしたら、インドでは自分は7.5万〜10万円はないと暮らせないんだな」と思ってしまうこと。せっかくインドでの仕事を見つけても給与額を見て「暮らしていけない」と思って見送る人がいたりします。

実はこれは大きな間違いで、インドでは日本ほど日常生活にお金がかかりません。大事なことなのでもう1回書きますが、インドでは日常生活を送る上では、日本の1/4も費用はかかりません。

「じゃあ約1/4〜1/3っていうのは嘘かよ?」と短絡的に考えた方、それも間違いです。平均すると確かに1/3くらいになります。つまり、日常必需品や交通費などは非常に安いが、贅沢品・高級品(特に輸入品)がとても高いので平均すると1/3くらいになるというだけです。なので、高級品で何もかも固めてあくまで日本と同じ水準をあらゆる面でキープしようと思ったら、1/3以上かかることもあります。

でも高級品ってそんなに日常的に必要なものなんでしょうか?インドでは見栄などもはる必要ないですし、そもそも普通に会社勤めしていたら平日は忙しいはずですから、散財しまくる暇もないはず。週末たまに気晴らしにショッピングする程度なら完全に日本での出費の1/4以下に収まります(注:駐在員の方は日本人同士の付き合いもあってまた違うのかもしれません)。

参考までにインドのスーパーで日常必需品を買い物したときの金額を書いておきます(2010年現在。ムンバイの割と高い目のスーパーです。市場や地元のスーパーだとこれよりもっと安いです)。1ルピーは約2円。

名前 単位 金額
トマト 1kg 17ルピー
キャベツ 1kg 17ルピー
ピーマン 1kg 36ルピー
にんじん 1kg 24ルピー
さつまいも 1kg 24ルピー
コリアンダー(香菜) 1束 5ルピー
いか(生) 1kg 189ルピー
卵(レギュラーサイズ) 6個入 20ルピー
バレンシアオレンジ 1kg(約6個) 99ルピー
りんご(グラニースミス) 1kg(約5個) 165ルピー
カシューナッツ 100g 64ルピー
ケロッグコーンフレーク(スペシャルK) 140g 45ルピー
ミネラルウォーター 2リットル 22ルピー

インドだと、野菜だけ食べているベジタリアンだと本当に安くあがります(果物ではりんごや最高級のアルフォンソ・マンゴーなど高いものもありますが)。高いのは加工食品(輸入品)です。

自炊派ではなく、外食をしたとしても、レストランのレベルはピンキリなので、地元の人たちで賑わうレストランで50ルピー以下でおなかいっぱい食事をすることもできますし、ホテルの高級レストランで1500ルピー以上掛けて本格的なお寿司を食べることもできます。チャイなども道端のものとホテルのものでは50倍以上値段が違ったり。

要は同じものでもピンからキリまでの金額設定があるので、選択次第だということです。映画なども日本みたいに均一料金ではなく、安く見ようと思ったら安い映画館のチープな席(朝の回で見るとさらに安い)もありますし、リッチに行こうと思ったら、高級ふわふわシート・画面が見やすい最後列(インドでは後列ほど良い席)までバリエーションがあります。

自分は普段は自炊しながらコーヒーだけはおいしいものを飲む、そして同僚とたまに飲みに行ったり、遠出してちょっと良いレストランに出掛けるなどして、食生活にメリハリをつけています(貯金もできています)。インドでは日本にいるよりお金の使い出があるなあと感じるので、日本の1/4基準だけでインドでの物価や給与について簡単に判断してしまう人を見ると「来て暮らしてみたら本当のところがわかるのに…」と残念に思ってしまうのです。

大学生が在学中にインドでインターンすべき7つの理由

いきなりインドに就職と言ってもハードルが高いのではないかと思います。そこでお薦めなのが大学在学中にインターンとしてインドで数ヶ月働いてみること。以下にお薦めできる理由を挙げてみます。

理由その1:自分の許容範囲や限界を知ることができる

日本での暮らしは快適です。料理はおいしいし、インフラも整っているし、街は清潔だし、治安もいいし、親兄弟や友達もいる。ひとりで楽しめる娯楽もたくさんある。暮らしをサポートする便利なサービスもこれでもかというくらいあって、今の日本では日常生活において不便さを感じることはほとんどないと言えるでしょう。お金を持っている限り。そういう便利で快適な環境に慣れてしまっていると、いざというとき自分がどのように対応できるのか、どこまでが自分の許容範囲で、どこからがアウトなのかというところがわからなくなってしまっているのではないでしょうか。

インドは発展途上で、まだ不潔だったり不便なところも残っている国です。観光客として通りすがり的にそういうところを味わうのではなく、日常的に、少なくとも数ヶ月間、そういう環境で暮らしてみるというのは自分の許容範囲を知るためにトライする価値があると思います。もちろん、トライしてもどうしても適応できない人も出てくると思いますが、その場合は「将来インドで働くことは自分にとってなし」というふうに選択肢が絞られたとポジティブに考えてみるのはどうでしょうか。なにしろインターンなので、失敗しても職歴に傷がつくわけではないのですから。

理由その2:英語圏の中ではハードルが低い

海外インターンといえば欧米を考える人が多く、インド企業の競争率はまだそれほど高くありません(最近は以前より人気が出てきたということですが)。そのため、英語力にそれほど自信がなくても受け入れ先を見つけやすいという点で、ハードルが低いと言えるでしょう。最初は若干苦労するかもしれませんが、オフィスでは日常的に英語を使用するので、数ヶ月後には、英語力の伸びが期待できます(個々人の努力に依存する部分もありますが)。将来的な働き方がどうであれ(日本企業に就職することになったとしても)、英語力は身につけていて損はないのではないのではないでしょうか。

なお、インド人英語を揶揄する向きもありますが、訛りはあっても、基本的に彼らの英語はQueen's Englishであり、インドの書店で売られている英語書籍も英国・米国のものが多いです(英英辞書なども日本で買うより安いです)。

理由その3:留学より費用がかからず、しかも効果的

インドに限らず、英語圏でのインターン全般について言えることですが、英語学習という点だけをとってみても、実践によるアウトプットがある分、インターンの方が効果的だと言われています。さらにインターンでは、企業内で働いてみるという経験もできます。また、留学の場合にはかなりの費用を用意する必要がありますが、インターンの場合にはそのような費用はかかりません。

実際、留学後にインドにインターンに来た人の話を聞いたことがありますが、受け身で学んでいた留学時よりもインターン時の方が英語力は格段に上がり、英語が本当に使いこなせるようになったと感じられたそうです(もちろん、留学時に英語力の基礎をつくっていたがためにその後応用できるようになったと考えられますが)。習うだけではなく実践的に英語を使う場としてインターン制度は活用できます。

理由その4:成長している国の勢いを肌で感じることができる

日本の高度成長を知らない世代にとって、成長中の国の勢いがどんなものかを肌で感じるためにはその国に行ってみるしかありません。リーマン・ショック以降、成長率が鈍りこそすれ、いまだ成長を続けているインド。その消費力・購買力には驚かされます(都市と農村では大きな違いがあるのですが)。暮らしてみると、なぜ外資が次々に進出先としてインドを狙うのか、その理由がわかると思います。

理由その5:インド人の優秀さ(あるいは優秀でなさ)を知ることができる

最近では日本で働くインド人(IT系など)も増えており、新卒採用で日本企業や外資系企業の日本法人に勤めることになったとしても、インド人と働く機会が以前と比べて格段に多くなっていると言えるのではないでしょうか。インド人=優秀とよく言われますが、それがどういうものなのかを一緒に働いて知ることができるチャンスです。個人的には日本人が考える優秀さとちょっと違っていて面白いなあと思いますよ。ちなみに、昨今では欧米大企業のCEOやマネジメントがインド出身のケースも多く、インドの人はそれを誇りにしていたりします。

理由その6:駐在員などインドで働く日本人と仲良くなれる(かも)

インドに駐在して働く日本人はまだそれほど多くありません。もちろん礼儀を尽くす必要はありますが、大学生が駐在員の方の仕事に興味を持ってコンタクトするなら、快くお話を聞かせてくれる方がほとんどだと思います。大学生の場合、現地採用VS駐在員のようなしがらみにとらわれることもないので、海外での多様な働き方を視野に入れ、インドで働くいろいろな日本人にコンタクトをとってみるのもいいのではないかと思います。おもしろいお話を聞けるかも。

私の知っているインターン生は人なつっこい性格で、駐在員さんにかわいがってもらい、飲み会などに誘ってもらったり、旅行も一緒に行ったりしていました。

インドで働く日本人をどこで探せるか?→ブログやWebサイトを持っている方もいますし、日本人会などに問い合わせると教えてもらえるかもしれません。

理由その7:いざというときのセーフティネットが構築できる(かも)

100%確実というわけではありませんが、インターン生として熱心に働き、その企業の人たちに気に入ってもらえたら、大学卒業後、そこで本格的に働くということもできるかもしれませんし、日本に進出している他のインド企業などを紹介してもらえるということもあります。

インターンとしてビジネス体験したかっただけで、インド企業なんて就職先として考えられないよ…」と思うかもしれませんが、新卒採用状況が厳しい中、日本でブラック企業や派遣などを選ぶしかないという状況になってしまった場合のセーフティネットはあった方が絶対にいいと考えます。少なくともインド企業では過労死はしませんし、英語力を磨くことで、次の転職時に日本にフィールドを限定せずに仕事探しができるという可能性が広がります(もちろん、日本に拠点を持つ外資での仕事を探すという手もあります)。

インドでのインターン募集情報の探し方

「インド インターン」などのキーワードでググると情報が探せますが、ここでは、海外インターンシップ事業を行っている非営利活動法人のAIESEC(アイセック)という団体を紹介しておきます。
アイセック・ジャパン: http://www.aiesec.jp/ 

呼ばれなくてはインドに来てはいけないのか?

インドで働いていると日本人に言うと、恐ろしい偏見や固定観念にぶつかります。もちろん言っている本人には悪気はないのでしょうが、「日本=フジヤマゲイシャ・サムライセップク」的なステロタイプを未だに口にする人が多くて愕然とします。

曰く、「聖なる牛が道に寝ていて交通の妨げになったりしているんでしょ?」(そういう街もありますが、そうでない街もあるんだよ!)

曰く、「料理は全部がカレー味なんだよね?(他の味の料理もありますってば!)」

曰く、「男性はみんなターバン巻いてるんでしょ?(ターバン巻いているのはシィク教徒の人で少数派。あと職場ではムスリムなどの人でも宗教色出さずに日本の会社員みたいにシャツにズボンだったりしますよ)」

曰く、「ダルシムサイババ…(ダルシムいません!ちなみにアフロの人は本物サイババの生まれ変わりを騙るニセモノですから!)」

曰く、「IT大国だって聞くよ?インターネット環境とかもすごいんでしょ?(欧米先進国のアウトソース先としてIT産業が栄えていることと、インド国内のインフラ整備とはまったく別の問題です。ちなみにインフラ整備の遅れはインドの致命的な欠陥です)」

インドと日本の物理的・心理的距離が遠いため、完全に間違っているとは言えないが、一部の情報や事実が誇張されたり、誤ってとらえられて、結果、変なことになっているのだと思います。その中でもっとも害になっていると思うのが、インドに対する過剰なスピリチュアリズム的思い入れ*1。少し昔のヒッピーやらバックパッカーやら「地球の歩き方」文化の名残ですね。

「そんなの個人の趣味だからほっとけば」と言われるかもしれないですが、これがあるから日本人にとってインドがハードルの高い国になってしまっているのだと思うのです。普通の人がなかなか暮らそうと思わない。「お好きな人にはたまらないが、その他の人は敬遠する」「人を選ぶ」国。

なぜか日本でやらないような無茶をインドでやって痛い目に遭う人が後を絶たない(インドが初めての若い女性が空港で一晩ひとりで泊まろうとする、違法なのにチャラスに手を出す、どこからどう見ても衛生上まずいとしか思えない汚い河なのに「聖なる」と言われて泳いで案の定病気になる、など)のもおそらくインドに何か特別なものを期待するあまり、冷静な判断ができなくなっているのではと想像します*2

インドの神秘が貴重な観光資源であるということは否定しませんが、もう少しインドについて現実的な見方をしましょうよ、と提案したいのです*3

現実を知った上で、「なぜインドに来たの?」という問いに対し、「インドに呼ばれたから」というスピリチュアリズム乙な返事をするのではなく、また「会社に言われていやいや駐在員として来た」と言うのでもなく、「仕事をする国として積極的にインドを選んだ」「働きがいのある仕事があるからインドに来た」という人が増えればいいなあと自分は思っています。

*1:日本人だけが思い入れているわけではなく、欧米人でも思い入れたっぷりの人がよくいます。

*2:単に「若気の至り」で馬鹿なことをしでかす人が来がちな国ということなのかもしれませんけど。またそういうことを煽る紀行文が多いのも事実です。

*3:じゃあ「その現実って一体どんなの?」という点については次回以降書いていきたいです。

インドで働くというのは現実的な選択肢なのか?

新卒採用は厳しい状況にあり、今後しばらくその状況が続くと予想されています(「2011年採用はさらにきびしい「新就職氷河期」か 新卒至上主義が若年層と企業に悪影響も」)。需要(=就職を希望する大学生の数)を満たすほど供給(=企業の採用予定人数)が存在しないわけですから、どうしても就職できない人は出てきます。そのときに一体どうするか。

起業することなどももちろん考えられます。起業についてはすでに書籍もセミナーもたくさんありますね。また、海外就職というのもひとつの現実的な選択肢となりうると思います。でも、なんだか若干煽り的に「中国やインドで働けば」的な言辞*1をよく聞く割には、インドでの就職について情報が少ないように思うのです。

例えば、タイで働こうとするならid:koshianXさん、シンガポールなら海外ニートの方、フランスなら(研究者の方ですが)Madeleine Sophieさんなど、他の国の場合は、論客の方々が読み応えあるブログを運営してらっしゃるのですが(あと米国だともっとたくさんあり)、インドの場合、そういうものが少なく、「インドで働く」ということを現実的な選択肢として考えるためには、情報がまだまだ足りないし、まとまってもいないように思いました(自分が見落としているだけならすみません)。

で、ふと、自分ならそれが書けるのではないかと思ってしまったのです。

というわけで、こちらでは、インドで働くということを現実的に検討する方(特に新卒の方)にとって有益な情報(インドの良い面・悪い面含め)を書いていければと考えています。

筆者はインドで働いて2年目の会社員です。以前からインドの文化などに興味があったわけではなく、純粋に働く場としてインドを選びました。現在の待遇や仕事内容に大きな不満はなく、職場の人たちとの関係も良好で、幸せに働けていると思います。ときどき出張で日本にも帰っています。インドで働く前は、日本のIT業界で働いていました。SEなどの技術職ではなく、マーケティング担当です。

*1:例:就職氷河期 サイコー!〜Chikirinの日記 など